海岸漂着ごみの処理責任
ハングルが書かれたポリタンクが二月中旬以降、日本海沿岸に多数漂着しているとして富山県は三日、見つけた場合は触らず、県の土木センターや自治体に連絡するよう注意喚起した。県内ではこれまでに二個が確認されている。
県によると、県内でポリタンクは朝日町で二月二十七日、高岡市で同二十八日に各一個見つかり、同センターなどが回収した。いずれも青色で、容量は二十リットル程度。表面に「殺菌剤・漂白剤」「H2O2(過酸化水素)」を意味するハングルが書かれていた。
富山のほか、八府県でも見つかっており、島根県で二千百十五個が回収されている。
引用元:ハングル表記のポリタンク漂着 富山県内2個確認で注意:北陸発:北陸中日新聞から:中日新聞(CHUNICHI Web)
日本海沿岸の各地で海岸にポリタンクが漂着しているようです。
冬の日本海沿岸には、季節風で波が強まる関係上、例年ポリタンクに限らずいろいろなごみが漂着します。
パラリーガルとして働いていたときには、海沿いの住民から
「ごみが大量に漂着しているのに行政が全然動かない」
「せっかく拾い集めたのに、行政が持って行ってくれない」
といった相談を何件か受けました。
近所の海岸にも、ポリタンク含め色々なごみが漂着していました。
波打際よりも陸側にたくさん打ち上げらられています。波が強いときに打ち上げられたものが、そのまま残っているのでしょう。
ポリタンクは一箇所にまとめられていました。
ごみの処理に関しては、法律で役割分担が決められています。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)
(昭和四十五年十二月二十五日法律第百三十七号)
2 事業者は、その事業活動に伴つて生じた廃棄物の再生利用等を行うことによりその減量に努めるとともに、物の製造、加工、販売等に際して、その製品、容器等が廃棄物となつた場合における処理の困難性についてあらかじめ自ら評価し、適正な処理が困難にならないような製品、容器等の開発を行うこと、その製品、容器等に係る廃棄物の適正な処理の方法についての情報を提供すること等により、その製品、容器等が廃棄物となつた場合においてその適正な処理が困難になることのないようにしなければならない。3 事業者は、前二項に定めるもののほか、廃棄物の減量その他その適正な処理の確保等に関し国及び地方公共団体の施策に協力しなければならない。(国及び地方公共団体の責務)第四条 市町村は、その区域内における一般廃棄物の減量に関し住民の自主的な活動の促進を図り、及び一般廃棄物の適正な処理に必要な措置を講ずるよう努めるとともに、一般廃棄物の処理に関する事業の実施に当たつては、職員の資質の向上、施設の整備及び作業方法の改善を図る等その能率的な運営に努めなければならない。2 都道府県は、市町村に対し、前項の責務が十分に果たされるように必要な技術的援助を与えることに努めるとともに、当該都道府県の区域内における産業廃棄物の状況をはあくし、産業廃棄物の適正な処理が行なわれるように必要な措置を講ずることに努めなければならない。3 国は、廃棄物に関する情報の収集、整理及び活用並びに廃棄物の処理に関する技術開発の推進を図り、並びに国内における廃棄物の適正な処理に支障が生じないよう適切な措置を講ずるとともに、市町村及び都道府県に対し、前二項の責務が十分に果たされるように必要な技術的及び財政的援助を与えること並びに広域的な見地からの調整を行うことに努めなければならない。4 国、都道府県及び市町村は、廃棄物の排出を抑制し、及びその適正な処理を確保するため、これらに関する国民及び事業者の意識の啓発を図るよう努めなければならない。
大まかににいうと、以下のとおりです。
- 基本的に、ごみを出した者(原因者)が片付ける。
- 一般廃棄物は、市町村が処理する。
- 産業廃棄物は、原因者が処理まで責任を負うが、自治体が処理することもできる。
ごみを片付けたり、処理すること自体は(核関係などの特殊なものを除いて)そこまで難しくありません。
ただ、収集・運搬・処理するのに、費用がかかります。
そのため、誰にどのような責任があるのかが非常に重要になってきます。
責任がある=費用を負担しなければいけないからです。
海岸漂着ごみの難しさ
海岸漂着ごみの場合、誰が原因なのかがわかりません。ここが難しいところです。
不法投棄の場合は、捜査すれば犯人が見つかるかもしれませんが、海岸漂着ごみの場合は大まかな原因までは特定できても、責任を負うべき個までを特定することはできません。
今回のポリタンクのケースでは、ハングルが書いてあることしか手がかりがありません。流出源の特定はできません。
原因者が特定できないからといって、海岸漂着ごみを放置しておくわけにはいきません。
魚や海鳥といった生物の住環境を破壊しますし、薬物が入っていたりすればさらにひどい災害を引き起こしかねません。
そのため、原因者の特定ができなくても、処理しなければいけないことになります。
加えて海岸漂着ごみは、処理しても処理しても、またやってきます。根本的な解決は不可能で、対処療法しか採れません。
必要なときに、必要な場所を、必要な量だけ処理するしかありません。
海岸漂着ごみの処理は誰がする?
海岸漂着物の処理責任者については、別の法律に定めがあります。
美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律
(平成二十一年七月十五日法律第八十二号)
4 都道府県は、海岸管理者等又は第二項の海岸の土地の占有者による海岸漂着物等の円滑な処理が推進されるよう、これらの者に対し、必要な技術的な助言その他の援助をすることができる。
この法律により、海岸漂着物の処理に対しては、
- 海岸管理者は処理のため必要な措置を講じなければならない。
- 市町村は、必要に応じ、海岸管理者に協力しなければならない。
このようなルールが定められています。
海岸管理者とは、海岸法という別の法律に出てくる主体で、基本的には都道府県(知事)です。
従って、先ほどのルールを読み替えると、
都道府県に処理責任があるような整理になっています。
都道府県が全部処理するのか?
先ほどの法律が制定されたのは平成21年です。
それまでも長らく海岸にはごみが漂着し、廃掃法に基づいて市町村が処理してきた実績があり、初動対応のようなノウハウも持っています。
さらに処理施設も市町村が持っているので、市町村が処分する方が効率がよいケースが多いです。
さらにさらに、廃掃法の規定もあり、市町村が海岸漂着ごみを処理してはいけないわけではありません。
パラリーガル時代に収集した事例では、実際は清掃したい(清掃しなければいけない)自治体が清掃しているケースが多かったです。
結局……
海岸漂着ごみの処理は、新しく作られた責任分担が実態にまだ馴染んでいないため、都道府県と市町村が連携して(悪く言えば仕事を押し付けあって)進めている状況、というのが結論でしょう。
ごみ処理には費用がかかり、海岸漂着ごみ全てを処理するだけの予算は割けません。
必要なときに、必要な場所を、必要な量だけ処理するしかありません。
この「必要」をいかに見極めるかが、今できる唯一の対策だと思います。