隘路

社畜による情けない日々

【読書メモ】法と経済で読みとく 雇用の世界 --これからの雇用政策を考える

久々の読書メモです。

販売士試験が終わってからは趣味読書の時間も確保できているので、少しづつブログでも紹介していきたいと思います。

 

本書は法学と経済学の観点から、雇用にまつわる現状の問題点を考えていく内容になっています。

本書を知ったきっかけは、知人からの紹介です。人材派遣関係の会社で働いている知人で、自分の就職活動失敗談を話したところ、「雇用に関して何らかの提言をしたいのなら、読んで損はない」と勧められたのが本書でした。

 

midnightcats.hatenablog.com

 

 

以下、本書の概要と感想……なのですが、途中の備忘録部分が思いの外長くなってしまいました。メインは「総評」以降なので、ここだけでも読んでもらえると嬉しいです。

 

 

雇用における法学と経済学

雇用に関しては、伝統的に

法学:労働者の保護

経済:効率性の追求

をそれぞれ目的としています。

 

「効率性の追求」とだけ書くと、経営者が労働者を酷使するかのように見えますが、搾取については前提にはなっていません。

むしろ、効率性が上がることで社会全体のアウトプット総量が増加し、その一部は労働者にも還元されるため、労働者にもメリットがあることになります。

 

このような基本的な考え方をベースに、現実に発生している様々な雇用の問題を検討していきます。

 

全部で13の章があり、それぞれ違ったトピックを取り上げているのですが、今回は自分にとっても一番身近で、内容的にも印象に残った、採用に関する議論を紹介します。

 

採用とマッチング

現在の日本の採用は、俗に「新卒一括採用」と呼ばれるスタイルになっています。これに関しては「一回しくじると正社員になりづらくなる」等、様々な問題点が指摘されているところですが、本書では法学と経済学が活きる場面として「内定・採用の取り消し」を検討しています。

この問題に対し、法学・経済学それぞれの観点から、問題解決の糸口を探ります。

 

法学の観点からは、まず「解雇のルール」を取り上げます。内定取り消しの法的取り扱い、試用期間と本採用後の解雇の違いなどを、判例に基づいて整理していきます。

 

続いて経済学の観点から、情報の非対称性を取り上げます。情報の非対称性とは、ここでは採用側の企業が、採用時点では労働者の情報を把握しきれないことを指します。そのため、実際に働いてもらうと、「こいつは当社には合わない」と思い至る、このようなケースが発生すると説明していきます。

 

同様に情報の非対称性は、本当は能力があるのに何らかの形で非正規労働者になってしまった人間が、なかなか正社員に採用されないことにもつながります。実務上の能力を証明することが困難な一方で、「正社員ではない」と言う事実自体が、強いマイナスイメージ(スティグマ)を持つからです。

 

ここから「経済効率性の向上のために、解雇規制を緩めて、合わない正社員を辞めさせるとともに、非正規雇用からの正社員採用を増やすべき」という主張が生まれます。同時に、今度は法学の観点から、「正社員から脱落する人が増えるので、正社員から脱落した人を助けるセーフティネットを強化する必要がある」という主張もセットで登場します。

 

法学と経済学、それぞれの学問の観点から現状改善のアイデアを出し、それらを調整して提言を作るというスタイルで、様々な問題に取り組んでいきます。

 

総評

本書の特徴は、一貫して現場にいるプレイヤーの観点ではなく、政策を考える学識経験者(学者)の観点から書かれていることです。そのため、読んでいくと「綺麗事だけで現実は回らないんだよ……」「そう上手く解決するわけないだろ……」「机上論を弄ばすに現実見ろよ……」と拳を握りしめてしまう場面もあるのですが、中途半端に現実を考慮していないからこそ、学者の考え方がどんな風になっているのか、よくわかるのだと思います。

 

マスコミで報道されるようなセンセーショナルな形ではなく感情論抜きで雇用について考えてみたい方、特に公務員志望の学生さんにお勧めの一冊かと思います。

 

雇用を語るのは難しい!?

本書は2012年初版で、今回自分が読んだのは2014年に新版として追記があったバージョンになり、実質3年前の本になります。

 

読んでいると、この3年間に随分雇用情勢が変わったんだなとしみじみ感じさせられます。

このブログを立ち上げるきっかけ(月100時間残業するとどうなるのかを生々しく伝えたい)となった長時間労働については触れていませんし、今流行りの生産性向上や、リモートワーク等の「働き方改革」についてもノータッチです。

そもそも圧倒的買い手市場を前提として書かれているので、議論全体に古さを感じてしまうほどです。

 

それでも、学識経験者による政策の考え方を、事例を交えつつわかりやすく紹介している、お勧めの一冊です。このような考え方は、なかなか市井には紹介されない(面白いと思う人が限られるから?)ため、本書を通して一度触れてみては?

 

(追記)

自分としてはお勧めなのですが、amazonのカスタマーレビューがなかなか辛口低評価ですね^^;

低評価をつけた方のコメントもすごく筋が通っていて、素直に頷ける内容なので、読後に見てみると面白いかと思います。

 

法と経済で読みとく 雇用の世界 --これからの雇用政策を考える 新版

法と経済で読みとく 雇用の世界 --これからの雇用政策を考える 新版