長狭物

社畜による情けない日々

今更ながら『ポケモン・カルト』読みました

今更ながら『ポケモン・カルト』読みました。

以前から気になっていたのですが中々入手できずに悶々としていたところ、本書の全文が著者ホームページで公開されているのを発見。念願の読書となりました。

 

「子供たちのポケモンへの熱中ぶりは、カルト宗教の信者の傾倒ぶりと酷似している。危険だ」「ポケモンの荒唐無稽な世界に浸かっていると正常な思考力・判断力が失われ、将来ろくな大人にならない」というのが趣旨なのですが、本文中の表現や論理展開が大変独特で、面白いです。自分と同じく赤緑からポケモンやっている方に特にオススメです。

 

また、ポケモンGOが一過性のブームに終わらず市民権を獲得しつつある現時点では、(カルトと言うのがふさわしいのかは保留としても)社会心理学的な観点からポケモンを眺める必然性が高まっていて、本書のようにポケモンを社会現象として改めて論評すべき時期に来ているようにも思います。

今後のポケモン論を考えていく際にも、必読の一冊でしょう。

 

以下、本書の雰囲気を少しでもお伝えできればと思います。

 

 

引用ゼロ、根拠はすべて筆者の知見

かなり序盤にて、「カルト宗教はすぐに聖句を口にする」「カルト宗教は切り文引用が上手い」という主張があります。権威者の発言を都合よく切り取ることで、自分の発言の信憑性を高めるのは、カルト宗教が得意とする姑息な手法だというのです。

権威づけのために外部の権威者を引用すること自体はカルト宗教に限った手法ではなく、オリジナルの意図をあえて歪曲し、都合の良いように切り抜く輩が多いことも事実です。

著者は「自分はカルトとは違う」と言わんばかりに、この主張を遵守します。引用をせず、著者自身の知見だけで論理を展開していくのです。

 

そのため、一般的な本でいう引用箇所と同じくらいの頻度で、著者と誰かとの会話が挿入されます。これが著者の主張を裏付けることになります。

このため著者の思いだけを一貫して書き連ねている感がでて、本書の味わい深さのひとつとなっています。

 

カルトの一言でくくって大丈夫なのか

ポケモンそのものを批判するというよりは、ポケモンがカルト宗教じみているから批判するわけで、根底にはカルト宗教批判があります。

 

ただ、「カルト宗教」という言葉は何度も出てきますが、特定の教団名は出てきません。カルトの定義も示されていません。

途中で「お金を払って戒名を取らないと極楽浄土に行けないのはおかしい」と、今日のお寺のあり方を非難する場面もあり、ますます著者にとってのカルトが何なのか、わからなくなってきます。

 

特定の教団を批判するのではなく、どんな宗教にもあるカルト性のような要素を批判する意図なのでしょうか?

それとも、地下鉄サリン事件直後の、宗教全般への不信感なのでしょうか?

 

……という疑問を持ちながら読み進めていったところ、本文の後で著者の苦悩が明らかにされていました。最後まで読み通してください。

 

 

超能力への言及

後半では、ポケモンと同列のカルト宗教じみたものとして、超能力が挙げられています。残念ながら自分は超能力ブームを知らないので、「そうなのか」と素直に受け入れるしかないのですが、こちらに造詣の深い人が読めば思うところがあるかもしれません。

 

ポケモン世代がどんな大人になるか?

さて今生まれつつあるポケモン世代は、やがてこれから先、どのような未来を作るのだろうか。私にもそれがわからないが、しかし、心豊かでやさしい未来出ないことだけは、確かだ。「殺せ!」「やっつけろ!」「ポケモンをゲットした!」などと叫んでいる子どもに、やさしい人間的な心が育つはずもない。彼らの心は、ますます砂漠化し、乾く。そしてそれを埋め合わせるかのように、怪しげなカルト教団は、ますますはびこる。私にはそんな未来しか見えてこない。

はやし浩司『ポケモン・カルト』p.191 1998年 三一書房

 

「自分と同世代でずっとポケモンを続けている人間」という括りで見ると、むしろ穏やかな人間が多いように思いますが、実際のところ、どうなんでしょう?。

 

総評

ポケモンについて論じているというよりは、カルト宗教への警戒を促すことが趣旨の一冊で、地下鉄サリン事件直後の世相が色濃く映し出されているのだろうと思います。

あとは世紀末独特のそわそわ感。久しぶりに感じました。

ポケモンについての言及は、「中身がなく暴力的」であることが繰り返し解かれるばかりで、具体的なコメントは少ないのですが、

 

・文字で書き起こされたものを分析したいので、紙媒体である穴久保ポケモンを分析対象にする

・サトシ母は典型的な教育ママで、サトシに戦いを強いる

ポケモンのプラモデルがある(未来予知?)

ポケモンは自我を持たず飼い主の命令を絶対遵守(リザードン……)

など、思わずクスリとしてしまう部分が散りばめられています。

 

すぐに読み通せますので、孵化作業のお供に一読してはいかがでしょうか?