鬼怒川氾濫と自然堤防、自然堤防という用語の適否ついて
2015年の鬼怒川氾濫、ついに訴訟に踏み切るようです。
今となっては遠い場所ですが、パラリーガル時代に直接関わっていた案件なので、どうしても気になってしまいます。
自然堤防とは?
毎日新聞の記事に「自然堤防」という言葉が出てきますが、この用語は元々地理学の用語で、土木用語ではありません。
一方で、「堤防」という言葉は土木用語にもありますが、土木用語上の「堤防」と、地理学上の「自然堤防」には、一切関係がありません。
地理学上の自然堤防という言葉は、たんに人の手を加えずとも盛り上がっている場所という意味だけでなく、形成過程や組成の特徴についても説明するものです。
一方、土木用語の「堤防」は、川の水を安全に流すために、人の手によって築造されたものを指します。語頭に「自然」を付け足すと、あたかも「人の手を加えなくても、元から堤防の機能を果たしている土地」という意味になりそうですが、地理学上の「自然堤防」との混同を避けるためか、そのような用法は無いようです。
行政側が出した文書には、「実態的には堤防のような役割を果たしていた地形(いわゆる自然堤防)」という表現もあります。それくらい「自然堤防」という言葉をそのまま使いたくなかったようです。
新聞報道においては、自然堤防を「工事によって造ったものではないけど、元々盛り上がっていて、堤防の機能を果たしていたところ」という意味でしか使っていませんが、地理学に親しい人がこの記事を読んだら、地形の形成過程や、土の組成についても言及しているものと解するでしょう。これはミスリードで、こんな言葉を使うと、議論がややこしくなるだけでは?
あえてポケモンに例えてみます。
「優勝者は汎用性に富んだパーティを使い、優勝した。」という一文があったとします。
この一文からどんなパーティを想像するでしょうか?
ある程度ポケモンに親しんでいる人なら、汎用性という単語からハーティを想起し、「なるべく交換を避けるパーティ」を想像するでしょう。
汎用性という言葉の一般的な意味から推測すれば、「相手がどんなパーティでも、そこそこ戦える、勝率の高いパーティ」という意味になりそうですが、ポケモンの文脈においては、「汎用性」という言葉は特殊な意味を持っています。
この場合、ポケモン用語としての「汎用性」に配慮が必要です。ハーティでないならば、誤解を避けるため、汎用性という言葉を使うべきではありません。
パラリーガルとして自分が担当したのが、自然堤防の定義確認でした。
マスコミが連日「自然堤防」という言葉を使うのに対し、行政側は(報道の引用を除き)使わないという、非対称性の原因を探ることが目的です。
調べた結果、たんに「工事していないけど、事実上堤防として機能していた箇所」と言いたいだけであれば、自然堤防という言葉は使うべきではないと結論しました。
原告側が「自然堤防」という言葉をどう扱うのか、気になるところです。
訴訟のゆくえ
新聞記事によると、住民にも相当の経済負担があるようです。原告の中に企業が入っていれば、住民の費用負担は軽く済むのでしょうが……そうはいかないようです。
今後、いろいろなところからの支援金が受けられれば、経済負担は抑えられるでしょうが、原告住民の数が多ければ多いほど社会的なインパクトが大きくなるので、そういう意味でも原告団集めが最初の課題になるのではと思います。
想定被告が国だけというのも意外でした。提訴するならソーラーパネル設置業者も巻き込むのだろうとばかり思っていましたが、もしかしたら設置業者がもう存在しないのかも……
国としては、過渡的安全性は満たしていたとの主張するのだろうと思いますが、それで済むかどうかが争点になるのだろうと思います。